今回は、2022年9月23日に日本で公開されたスリラー映画「LAMB/ラム(原題:Lamb)」を紹介します。本作は第74回カンヌ国際映画祭で上映され、A24が北米配給権を獲得したことでも話題になっています。ちなみにカンヌではある視点部門で"Prize of Originality"を受賞したのですが、同年のパルムドールがあの「TITANE/チタン」なので、この年のカンヌはとんでもなかったなと思わされます(笑)。
■作品概要
作品:Lamb
製作:2021/アイスランド・スウェーデン・ポーランド
上映時間:106分
■あらすじ
羊飼いの夫婦、マリアとイングヴァルは羊たちの世話をしながら穏やかで平穏な日々を過ごしていた。ある日、羊から"羊のような何か"が生まれてきて驚く2人だったが、"アダ"と名付けて自分たちの子供として育て始める。3人家族としてまた平穏な日々を過ごし始めるが、子供を盗られた母親羊も黙ってはいない。そして、イングヴァルの兄が突然やってきたことで平和だったはずの日常が少しずつ崩れ始める……。
■予告編
■ネタバレなし感想
第74回カンヌ国際映画祭、パルムドールを受賞した「TITANE/チタン」はとんでもない怪作だったのですが、ある視点部門でも非常に不思議な作品が話題になっていました。それが本作「Lamb」です。
マリアとイングヴァルの夫婦は、かつて"アダ"という名前の子供を亡くし、それから夫婦2人で静かに暮らしていました。そんなある日、飼っていた羊から"顔が羊で体が人間"の不思議な生き物が生まれます。夫婦は"アダ"と名付け、子育てをしながら幸せを取り戻していくのです。なんだかおとぎ話のようなストーリーですよね。
ただし、決して感動のヒューマンドラマではないので、そんな簡単にはいきません。当然、自分の子供を盗られたアダの母親羊は毎日のように家の前で鳴き続け、次第にマリアは強いストレスを感じるようになります。
また、イングヴァルのダメ兄貴ピーターが転がり込んできたことで、これまで幸せに暮らしていたはずの夫婦に暗い影を落とし始めます。正直僕はこの兄貴がどうも好きになれず、言動も図々しく無神経なのでイライラしてしまいました。
最後に驚きの展開はあるものの、終始不気味な静けさに包まれた北欧らしい映画となっていました。何とも言えない気持ちになる結末が待っているので、気になった方はぜひ配信で!
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■ネタバレあり感想
↓ここからネタバレありなので注意です!!!
アダの母親羊は毎日のように家の外で鳴き続けるので、マリアはとうとう母親羊を撃ち殺して埋めてしまいます。そしてその姿をピーターが見ていたのです。
ピーターとマリアは過去に不倫関係にあったらしく、ピーターはマリアが母親羊を殺したことをイングヴァルに隠していると知り、そのネタで再び関係を迫ろうとするのです。イングヴァルを愛しているマリアは断りピーターを家から追い出すのですが、弟の幸せを壊そうとするこの兄貴何なの?と腹が立ちましたね。
また、ピーターは謎の生き物を育てている弟夫婦に最初はドン引きするのですが(これは当然の反応)、「あれは人間じゃない!」としつこく言ったりするので、2人が幸せならいいじゃん!余計なお世話!と思いながら見ていました(笑)。
というのも、それだけアダが可愛いのです!イングヴァルにくっついて寝ている姿を見ていると、父親に甘えている子供という感じで本当に愛らしかったです。
最後は、アダの本当の父親(顔が羊で体が人間)が登場し、イングヴァルを殺してアダを連れ去ってしまいました。愛する夫とアダを失ったマリアは本当に一人ぼっちになってしまい、絶望して物語は幕を閉じます。
本作、深読み要素やメタファーもたくさんあると思いますが、シンプルな見方をすればとても分かりやすい寓話だなと感じました。他人の子供を奪って自分の子供として育て、しかもその子の母親を殺してしまったわけですから、まさに因果応報ってやつですよね。
このスッキリしない展開を退屈に感じるかは人それぞれですが、北欧作品が好きな方はきっと気に入る世界観かと思います。非常におすすめの一作です。
■関連作品
・こちらも暗い気持ちになる北欧ホラー
・Lambと同年のカンヌでのパルムドール受賞作